[エッセイ/随想]再生
(2004/07/12 01:01:26)


月並みな言葉だが「人生山あり谷あり」といわれる。

平坦な道は兎にも角にも味気ない。そして、他に何らの影響も及ぼさない。
これまでの自分の半生を顧みたとき、大いに起伏に富んでいた。


今、自分の置かれているポジションは間違いなく「谷」──しかも、深い渓谷。
何があろうと堪え忍ばねばならない時期だ。

娑婆とは、堪忍の世界。
堪忍とは、「ならぬ堪忍するが誠の堪忍」。

はらわたが煮えくりかえろうが、堪え忍ばねばならない。
満たされぬジレンマを咆吼すれば、負け犬の遠吠えと一笑に付されるだけだ。

谷の時期に、さらに谷底へと突き落とされる絶望感。疎外感。孤立感。
前途に明るい光を見出せない者は、藁にすら縋ろうとしない。

人は限りなく弱いものだ。だが、須く強くあるべきだ。自分の中に弱さ強さを見出し、強くあろうとする姿勢が美しいのだ。

己の義に忠実であるということには切なさがつきまとう。

十年という歳月を費やしても尚想いが伝わらなかったように。
その歯がゆさや辛さが分かるといった者にも裏切られたように。

自分の真意や本意というものは、他人にとっては何も意味を成さないものなのだ。

ただ、それら要素に恨み辛みは微塵もない。
マイナスを知り得ただけで十分にプラスだ。

己の義が陳腐で見窄らしいものにしか感じられなくなった矢先、自暴自棄からか、自虐的行為からか、頭蓋を骨折し生死を彷徨った。

何故、こちらの世界で生存することを望まれたのか…

あちらの世界が受け取り拒否したのには何か理由があるのだろう。やり残したこと、などという大層なものではない。やらねばならぬ何か──が残っているのだ。

堪忍の世界で自分は何を成すべきか?

脈打つ生きたほむらがジリジリと内側を焼き焦がす。
バーボンを寝かすオーク樽の内側が焼き焦がされているように。
熟成したときに馥郁とした芳醇なフレーバーを放つように。

再生には時間が掛かるものだ。
気長にじっくりと焦燥を楽しみたい。

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