「──とまぁ、赫々然々という訳で大変なんですよ。…って、話聞いてます?」
「何の話だね?」
「…っと、これだよ。私の話聞いてました?」
「アナルの拡張率の話かね?」
「はぁ? いきなり何言い出すんですか? まったく関係…」
「ケツの穴が小さい」
「──!?」
「いくら君が捲し立てたところで困窮を脱する手立てには繋がらん」
「いや、まぁ… それはそうなんですけど…」
「事が起きてから初めて思考を巡らせる」
「そりゃまぁ… 予想だにしていなかった事ですから…」
「ただ、いくら思考を巡らせたところで本質は何も変わらん」
「……」
「人間は考える葦である、とは誰の言葉だったか──」
「パスカルですね、資本論の」
「彼には申し訳ないが、人間というのは問題が起きてからでないと葦を生い茂らせることはないのだよ。彼ほど思慮深い人間ばかりで世界が構成されているとは考えにくい」
「はぁ、言われてみればそうかも知れませんね…」
「否、特別に反省することもない。私もそうだからね。君が私に自身の一大事を告げる、そして、それについて私は君と一緒に考えることを強いられている──今、ここだ。違うかね?」
「あの… 何だかものすごく嫌味に聞こえるのは気の所為ですか?」
「否、嫌味を言っているのだから君の感性はすこぶる正常だよ」
「ハハ… 笑いも乾きますね…」
「なるようになる、ではない」
「と言いますと?」
「なるようにしかならない、ということだ。分岐はないのだよ」
「Let it be ですか?」
「すべて結果論だからね。原因と結果というのは常に一対だ。今、自身にとって不都合なシーンに出会しているとするならば──」
「するならば?」
「それはそういう原因があった、ということに過ぎない」
「ムゥ… 情緒の入り込む隙間が1ミリもない…」
「例えば、望まぬ結果に陥ってしまった原因が複数あり、それらが複雑に交錯して現状を作り出した、という錯覚を起こしがちだが、何てことはない元を正せばひとつなのだ」
「んー、そういうもんですかねぇ…」
「自身の存在がその最大原因なのだ。存在し得なかったらそのシーンに出会すこともあるまい」
「いやぁ、それはそうですが… 些か抽象が過ぎるのでは、と…」
「ウム、抽象を語っているのだから過ぎるということはない。君の一大事など私にとっては最大の抽象であり、それ以上でもそれ以下でもない。何故、私はそれに付き合わされる羽目に遭っているのだね? 私の存在が原因ではないか」
「済みません。話を続けてください…」
「ウム。最大の原因は自身の存在である、ということは理解に至ったようだが、それを探ったところで無限後退に陥るだけで、遂には本質的な原因には辿り着けないのだよ」
「え、それはどうしてなんですか?」
「君の存在はどうしてここに在るのかね?」
「えっと、それは… 平たく言えば父母の営みによって誕生しました」
「ウム、私と同じだ。照れる要素は微塵もない。では、その父母の存在はどうして在るのかね?」
「それは父母の父母の営みによって… って、これが無限後退ですね?」
「そう。そして、いくら遡ったところで原因と思しき本質に到達しない」
「まぁ、確かに…」
「あるいは、よしんば人類誕生の原因が解明されたところで君の現状に何か役立つことはあるかね?」
「何もありませんね、切ないほどに思い出ポロポロのいとまもない…」
「そう。原因と結果というのは物理現象のひとつに過ぎないのだよ」
「はぁ、それは分かりますが… 結局のところ私はどうすれば…?」
「安心し給え。そんな君に必殺の呪文を授けよう」
「え、そんなチートあるんですか!? ゲームじゃないんですよ?」
「ある」
「それは一体…?」
「我が魂の命ずるままに──」
そして、僕は途方に暮れる。
宇宙開闢、人類誕生に意味・理由・目的など何もない
自身が存在する以前から既に存在し成立していた、というだけのこと
君の瞳がこの世界をどのように映し出しているのか──
僕はそちらのほうにしか思考が巡らない
そんな感じで♪
Keywords: 世界観 宇宙開闢 人類誕生
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