[エッセイ/随想]勢力関係考
(2009/10/07 01:31:56)


人は、それぞれのテーゼに基づき、己の掲げる「理想」へ至ろうと欲する。

「理想」の定義はさておき… 理想とはどんな綺麗事を並べようが、極論、私利私欲。

自己中心的でない人間などこの世に存在しない。本来、自分さえ良ければ他人はどうでも良いのだ。


それぞれが自己中心的である人間の群れ。それらが雑多に入り混じっている人間社会。

「玉石混淆」とは人間社会のことを差す言葉だ。


お互いのテーゼをぶつけ合うだけでは、当然、軋轢が生じる。「価値観の相違」など、デフォルトなのだ。「一致」或いは「近似値を得る」ことのほうが「奇蹟」と云える。


個々が自身のみで到達できる理想ならば、他人と関わる必要はない。人間関係に苦しみ、ない知恵を絞って、あれこれ悩む必要はないのだ。

それこそ、「独善独歩」「唯我独尊」「傍若無人」──それで一向構わないと考える。


ただ、人はそれほど強くない。

何でもひとりで解決できることが「強い」と云う訳ではないが、自分を知る為に…身の程を知る為に…必ず他人を利用する。

「自」と「他」と云う「境界線」を以て「自のアイデンティティ」を確立する。

それは「お互い様」だ。

或いは、相対的に捉えれば、本来、「自」と云う存在は何処にもない。すべてが「他」だ。

「自分だと思っている自分が居る」

つまるところ、自分のことですら「客観視している」と云うことだ。

嗚呼、自身を純粋に主観視できたたら、どんなにも素晴らしいことだろうか…

前段と矛盾するので、さておき…


お互いを利用するにあたっては、ギブ&テイク的な発想が用いられる。要するに「持ちつ持たれつ」と云う懐柔策を採る。

合理的であり、よりスマートだ。


そこで「敬」や「信」と云う言葉が浮かぶ。

「尊敬」「敬意」など──人間の持つ「敬う」と云う「憧憬心理」

「信用」「信頼」など──人間の持つ「信じる」と云う「依存心理」

──それらをうまく利用するのだ。


自身の理想に他人の存在が必要な場合、この「敬」「信」と云う感覚は必須であると考えられる。

余談だが…

僕が「尊敬」や「信用」などの言葉を遣いたがらない理由もここにあったりする。

何故なら──

本来、「尊敬」や「信用」をお互いに通じ合わせているのならば、態々(わざわざ)、口にするまでもなく、双方の胸の内に自然に宿る筈だ。つまりは「暗黙共有知」。

それをいちいち「確認」せねばならないと云うことは、相手がこちらを尊敬も信用もしていないからだ。

──と、考えているからだ。


閑話休題。


一般的な「敬」「信」を心理学にて紐解いてみたい。

人間が他人を尊敬する、もしくは従う(信じる)場合、心理学的には次のいずれかの「勢力関係」がある、とされている。


  1. 報酬勢力…従えば報酬を得られる。
  2. 強制勢力…やむなく命令に従う。
  3. 専門勢力…知識と技術に従う。
  4. 正当勢力…その人に従うのが当然。
  5. 準拠勢力…あの人のようになりたいから従う。


このうち、1〜3は、所謂、職場などの「上下関係」でよく見られる。

「上下」とは云え、業務上や役職上、つまりは「形骸化した関係」と考えているが、さておき…

4は、ひと昔前の「親子関係」で見られたものだ。今や「父親の威厳の失墜」で見る影もないが…

例えば、この正当勢力が侭なっているのならば、昨今の少年犯罪等の発生は極々僅少である筈だ。現状は云わずもがな、である。

5に「敬」「信」のヒントが隠されている。


自分を理想に近づけ、模倣し、自分を同一化させようと云う願望を心理学的には「同一視」と呼ぶ。

この同一視の相手こそが「尊敬すべき像」と云うことなのだ。


「尊敬」から「信頼」を勝ち得る。
「信頼」から「尊敬」を勝ち得る。

どちらが入口でも構わないのだ。

その人に準拠勢力を放つだけのオーラがあれば、黙っていても人はついてくる。

「憧憬心理」をうまく煽っているからだ。所謂「カリスマ性」と呼ばれるものだ。

「憧憬心理」がコントロールできれば、「依存心理」もうまく引き出せる。

つまり、「あなたなしでは生きてゆけない」と云うこと。

──この辺りが「一般的」な思考回路だろう。

ここまで高められれば、相応の理想は手に入れられると考えられる。

まぁま、十分に険しい道ではあるが…


僕はカリスマ性のない報酬勢力や強制勢力に興味はない。専門勢力を以て準拠勢力を確保し、正当勢力に押し上げる。

「いっぱしの長」と呼ばれる為には、それらが「暗黙」で求められている。

──そんな風に思えてならない。


必然的超重圧負荷だ。


精々ご自愛下さいませ──。

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