[エッセイ/随想]くぐもった生き方
(2012/08/03 00:37:27)


避難口を塞がぬこと


禁則を謳った張り紙に目が留まる。しばらくして、ああ、そう云うことか、と感じた。

マンションの門扉(もんぴ)に貼られていたのだが、開閉の邪魔にならないよう住人らに促すためだろう。通りに面した門扉の前にゴミなどが置かれていたら、地震や火災のときに避難経路を塞ぐことになる。

なるほど、ご尤もだ。

表面的にはその辺りが主旨なのだろうが、そこから枝が伸びた。

『くぐもった生き方』──である。


僕が何を感じたかと云うと、

僕らは冒頭の禁則を破って物を置いたりする。否、何も実際に段ボールや粗大ゴミなどを置く訳ではない。精神的な意味合いでの「障壁」を差しているつもりだ。

例えば、危険が迫ってきて逃げねばならないようなとき、わざわざ自分で脱出ルートを塞いだりしてはいないだろうか?

或いは、門扉の前に障害物を置いた自分自身が原因にも関わらず、勝手に八方塞がり感に苛まれたりしてはいないだろうか?

やぁ、自分で逃げ道塞いどいて… どんだけひとりテンパイやねん

と、そんなことが浮かんだのだ。更に枝が伸び、

では、張り紙は不要なのか? 危険回避の目的で掲げられたそれすらも守れず、わざわざ自分で自分の首を絞める。まったく無意味じゃないか。

と続き、更に発展する。

ならば、「まんじゅう怖い」作戦に切り替えてはどうか? 刺さる文言に変更する。

何でもじゃんじゃん置きなはれ。逃げ道ばりばり塞ぎなはれ。こっちはちーとも困らんよってに。さぁ、やりなはれ。さぁ、どうぞ──

なかなかに面白いリリックだが、ここでしばし思考が止まる。

やぁ、こりゃ「まんじゅう怖い」ちゃうなぁ… ただの「一流の嫌味」やんけ…


鳥居のアイコンを描き「立ち小便禁止」だとかを目にした機会もあるかと思うが、その禁則の傍らによりによってその逆の痕跡が見受けられたりもする。

首を横に振るばかりだが、人は割りかし天の邪鬼なのだ。


「まんじゅう怖い」とは、要するに「逆説」だ。本当は、まんじゅうが好きで好きで堪らない。大好物なのだ。

 欲しいものを怖がり、怖いものを欲しがる。

つまり、逆説を促すことによって、まんまとこちらの思惑通りに事を運ぶ、と云うことだが、これはその「天の邪鬼心理」に付け込んだ最も効果的な策略のひとつだと云える。

じゃ、やっぱり「置きなはれ」でえーやんなぁ

禁則の逆説をもって自身の順説を貫けば、結果、思いは侭なる。遂げられる。


或いは、禁止命令と云うのは往々にして効果が薄い。その禁則を破る、と云う背徳感に負けてしまうからだろう。

かの米国が敷いた悪法のひとつ「禁酒法」の例を挙げるまでもなく、人は悪徳を百も承知でそれを乗り越えたがるクライマーなのだ。

登山家のつもりで「クライマー」と綴ったが、犯罪のことを「クライム」と云う。なるほど、「一線を踏み越える」と云う意味合いが語源かも知れない。

閑話休題。

冒頭の張り紙、僕は通勤電車の車窓から見掛けたのだが、掲げた当人の与かり知らぬところでこんな思考が展開するとは夢にも思わないだろう。

そして、その答え。行き着く先は…?

取り立てて、特別なものは見当たらない。虚ろで曖昧な想いが旋回するだけだ。


こうして物憂い通勤時間に更に拍車を掛け、Mっ気たっぷりにやり過ごす。

僕は余計な思考回路を惜し気もなくフル動員する。はて、何処かにうまい脱出ルートはないものか?

やぁ、差し当たって、とりま手前のオッサンが邪魔やなぁ。せやし、避難口塞ぐな、ゆーとんねんかぁ。まぁま、そんなを面と向ってゆえんから──

大抵が「くぐもった生き方」やんなぁ


【訓示】
俯いていても滑舌良く☆
隣りのガキはよく客喰うガキだ
東京特許庁!(東京特許許可局なんてないからね)

そんな感じで♪

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