[エッセイ/随想]釈放
(2008/01/11 08:01:25)


手作りの紙巻き煙草。

紙をボールペンに巻き、紙の端をペロッと舐めて糊付け。スッとずらして筒状にする。

指先で揉み解した葉を筒の中に落とし込む。

時折、トントンと葉を詰め、細い棒で念入りに詰め込む。

そんな一連の作業を筒の中が満たされるまで繰り返す。


掛かる時間は10分と少し。

満たされた筒の片方を吸い口として丸め、オイルライターで点火。

ゆっくりと喫い込み、ほうと吐き出す。

フィルタで稀釈されていない濃度の高い煙が肺腑に取り込まれ、吐き出された煙はみるみる部屋を汚染してゆく。

短くなった煙草をピンセットで摘み、ギリギリまで喫う。

市販煙草の有り難みが滲みる。

手間暇掛けて作ったものが、ものの1分も保たず灰に変わる。

何も詰まっていない。スカスカだ。

空虚な内面を焼き焦がし、堪らず溢れ出した紫煙は部屋の隅々までゆき渡り、やがて、滲み入るように壁面に呑み込まれてゆく。


 快適な独房でのひとコマ──。


どうやら、この独房から釈放されるときが来たようだ。

刑期を終えた囚人の筈なのだが、何故か不思議と喜びはない。

得体の知れないものが、もやもやと胸に立ち込める。

これは「未練」──だろうか。


果てしなく透明な闇の中で
仄黒く煤けた鉱物が
緑色の粘液で溶かされる。

ぶすぶすと燻されながら
厭な臭いを発しながら──。

爛れた内面のおぞましさが
瞼の裏側から脳裏に灼き憑く。

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Tags: 未練, 濃度, 煙草, 空虚, 紫煙, 透明な闇


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