[エッセイ/随想]究極の嫌がらせ
(2009/06/11 04:55:43)


僕は猛毒だ。
一度含んだら二度と解けない。

思考繊維に滲み渡り、決して浄化されない。
常に、何処かで思考の片隅に忍び込む。

究極の嫌がらせとは、こう云うこと。


心地好さは毒気に当てられているだけ。
心地好さも不快感も常に隣接しているのだ。
どちらの極に傾ぐか、常に揺蕩っている。

平衡感覚を失えば一気に不快感へと傾ぐ。
そして、全身、蝕まれる。

生きながら生きた心地は失われる。
そう。死んでいる状態と一緒なのだ。


僕は猛毒だ。
一度含んだら二度と解けない。

毒も薬も、両方共、毒だ。
でなければ効力と云うものは発揮されない。

そもそも毒でなければ効力を発揮しない。

致死量と云う言葉が示す通り、用法・用量を誤れば絶命する。


僕は猛毒だ。
一度含んだら二度と解けない。

用法・用量を誤らねば快楽は継続する。
危険だから慎重に取り扱い給え。
火傷するくらいじゃ済まないだろう。

毒気が全身を蝕み、やがて、苦悶のままに──。


決して逃れられぬ苦しみを抱えたままに死ね。

僕は何もしていない。
ただ、存在しているだけだ。

その事実認識ができない愚か者は、その愚を抱えたままに死ね。

いずれ必ず死ぬのだ。
遅いか早いかの違いだけ。

生き方よりも死に方。

生とは、それを模索しているだけの過程に過ぎない。そして、死は結果ではない。

生そのものが結果なのだ。生まれて来た、と云うことが既に結果なのだ。


僕は猛毒だ。
一度含んだら二度と解けない。

ごめんなさい、が白々と空々しい。
ありがとう、がシニカルな苦笑を誘う。


苦難を乗り越え、おめおめと生き恥を晒すがいい。お互い様だ。

一度呑んだものを覆すとは… 余程、胃が丈夫なのだろう。僕の胃は吐くこともできないほど衰弱している。

肝機能だけでは些か骨が折れる。一度呑んだものは全身で濾過するしかないのだ。

──それでも決して浄化されない。


お互いの毒気に当てられていただけ。

僕は僕の毒には耐性があるので、それに当てられることはない。
君の毒には──甘んじていただけ。
心地好い毒であった。

究極の嫌がらせとは、他人を愛する、と云うこと。


僕は君を愛している。
ただ、純愛の矛先がひとつ失われた。

もう他人を愛することはないのかも知れない。

呉々もご自愛下さい。

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