結論から云うと、本当に優しい人というのは、ひと思いに絶命させてくれる人である。
これは比喩的表現としても当て嵌まるが、実際に自分を殺してくれる人間ということだ。
この超逆説は過激思考から導き出された解ではなく、とても簡単なことから導き出された解だ。
優位性に基づいた優しさは、真のS気質でないと持続しない。
真の優しさとは、生殺与奪を完全に掌握した者のみが放てる。
人の死というのは、生き残りが某しかを感じるだけであって、当人に自身の死を感じることはできない。無自覚に自身の死を受け入れる、ということであって当人にあるのは「無」だけなのだ。
法規上や倫理上の観点ではなく、人の死とはそれ以上でもそれ以下でもない。そして、それは平等に訪れる。否、公平に訪れる。
平等と公平の違い云々については割愛するが、人の死とは平等ではなく公平なだけだ。
往生際に様々な思いを乗せられるのは客観視しているからだ。
漫画・小説・ドラマ・映画などで見る人の死。これらは飽くまでもフィクションとして客観視している。
死という概念を概ね知った上で、娯楽として割り切り、脳内で切り刻んで楽しんでいるのだ。
そういったときの思考というものは、自分自身のことについては、まるで棚上げされていたりする。リアルに置き換えれば残虐極まりない酷たらしい描写であっても物語を読む者、観賞する者の覇者感、無双感たっぷりで超余裕かも知れない。
うわぁ〜ヒドイ… でも俺死なねーし読んでるだけだし見てるだけだし。
サイコパスなりを云々しているつもりはない。健康な精神状態であれば、誰もが理解し得る範疇での話だ。
例えば、感情移入している登場人物の死に涙したとしても、それは物語上での出来事であって、実際に関わりのある人の死とは別物だということは分かり切っていることだろう。
いずれにしても、人は必ず死ぬ。乳飲み子ならいざ知らず、大抵の大人が理解し、最も恐れていることのひとつだ。
ただ、その恐怖も日常に掻き消され、思考の最下層に埋没する。そして、その恐怖が再浮上することなく、諦観の笑みを以て無為に生が摘み取られて逝く。
最終目的として死を据えると、必然的にすべてが空虚な絵空事に成り下がる。それもその筈、何を成そうが成すまいが灰燼に帰するのだ。情緒的要素なりは、やはり生き残りの未練でしかないことを思い知る。
そんな中で優しい人に出会う。本当に優しい人に。
優しい人というのは当人にその自覚はない。先のスペル「無自覚に対する評価」でも触れたが、そのものたらしめる根幹・輪郭なりというものは当人の自覚など何らの関係もないのだ。
優しいと感じるのは他人。当人に自覚があるとすれば、それは単なる優位性の誇示に過ぎない。
要するに、優しさを押し売る者とは自身の優位性と自己顕示欲を満たしたいがために他人を利用しているだけなのだ、と。
真に優しい人は終局を知っている。故に、それを何の躊躇もなく行使するのだ。
それも唐突ではない。出会い頭に問答無用で斬りつけて来たりはしない。それで優しさを感じる者が居れば別だが、余程の変態でもない限り、そんなシチュエーションで快感を覚えるとは考え難い。
あるときは、命懸けでその対象なりを救おうとすらする。誠心誠意尽くし、その対象を最大級に愛で慈しみ──最後には自らの手で殺すのだ。
共に生きるとは、緩やかな心中である。
いずれ必ず死ぬのだ。それを穏やかに迎えたいと願うことが幸福の頂点なのだろうと感じている。表現の違いは様々にあれど、すべてはここに収斂するのではないか、と。
ここまでズラズラ綴っておいて何だが、いち文化人の端くれとして断っておきたい。
この駄文なりは殺人を推奨する訳でも承認する訳でもない。馬鹿な奴は言葉を都合良く額面通りに受け取る無自覚な性癖があるので、敢えて弁明しておく。
殺人はアカンよ、捕まるで?
逃げても多分、気分のいいことはないやろな…
生殺与奪を完全に掌握している者が敢えて生かしている、ということはどういうことだろうか?
それはいつでもできるから殺さない、ということに他ならない。
ここに未曾有の優しさを感じる僕は、やはり折り紙付きの変態なのだろう。
「こんな優しいオッサン他に知らんで?」
「あらそう。それは2回目」
我が魂の命ずるままに──。
*2017.02.05・草稿
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