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Sは老紳士Mの到着を待っていた。相変わらず、札束を凝視したままだ。額から大粒の汗が流れ落ちる。背中にも無数の虫が走った。
「…何やってんだ、俺は! この暑い中、部屋の窓、閉めっ切りじゃねえか…」
テーブルの上にあったリモコンをひったくり、エアコンのスイッチを入れた。せき切ったように冷風が吹き出す。額の汗を手で拭うと、頭の中で警報音がフェイドインして来た。
ワーニング! ワーニング! エマージェンシー! エマージェンシー! 分かってるよ、そんなことは! うるさい、大人しく待ってろ!
彼は煮えたぎった頭をなだめようと必死だった。
発信器だと? まだ、話してないことって何だ? 一体、俺は何に巻き込まれたんだ? 何か悪いことしたか?
まぁ、多少、思い当たる節がない訳じゃねえが… それにしても異常事態には変わりねえ… 何なんだよ、一体…
彼は謎の老紳士Mに冷静に、と云われたが、それどころではなかった。エアコンの冷気が頭を冷やしてくれるのを待つしかなかった。
まぁ、ジタバタしても始まらねえ。よし、彼が来たら問い詰めてやろう。俺に非はねえ。洗いざらい白状させてやる…
彼は腹をくくると、ソファから立ち上がり、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。プルタブを倒し、ひと口呷り、ひと呼吸。札束の前に缶ビールを置いた。
部屋の温度も徐々に下がり、何とか平静さを取り戻した。
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