「“正解”って知ってる?」
「何についての?」
「や、純然たる正解だよ」
「何だ、そりゃ」
「正解てな、正しい答なんだろ?」
「ま、そうだな」
「てことは、それを目指さないと駄目だろ」
「駄目ってことはねえけど… ま、そのほうがいいよな」
「だったら、正解についてちゃんと知っておくべきじゃねえのか?」
「ま、そうだな」
「でな、俺はこんな風に思ってるんだ。正解ってのはな。そこに辿り着くと、実はすべてが終わってしまう、と」
「どうして?」
「正解の反対って何だ?」
「んー、“不正解”じゃねえのか?」
「や、ちょっと違うな」
「え? じゃ、何だよ」
「“好き”の反対は?」
「“嫌い”」
「そうだろ? で、“好きじゃない”って云い方もある」
「あ、そういうことか… 不正解って云い方は“正解じゃない”って云ってるだけだもんな。確かに、ちょっと違うな」
「不正解ってのは、テストの答え合わせなんかで遣う言葉だ」
「ああ、そうだな。で?」
「正解だと○、不正解だと×」
「そうだな」
「もうここに答があるんだよ」
「どういうこと?」
「正解だと終わる。もうその問いに答えなくていいからな」
「確かに…」
「逆に、不正解だと次がある」
「ん?」
「云い方代えりゃ、不正解は“希望”に繋がるよな?」
「はは。ちょっとロマンチックな解釈だな。で、正解の反対って?」
「バラしてみようか」
「何を?」
「正解ってのは“正しい解”ってことだろ?」
「ああ、そこから探ってみる、と」
「“解”ってのは、まんま答ってことだから、頭の“正しい”について考えてみるか」
「んー、正しいの反対は… “間違い”じゃねえのか?」
「そうだな。そんなのもある」
「他にもあるのか?」
「じゃ、“正”の1文字で考えてみようか」
「ああ」
「“正負”って言葉があるだろ?」
「あるな。プラスとマイナスって意味だ」
「そう、対義語だよな。じゃ、正解の反対は“負解”?」
「や、そんな言葉は聞いたこともねえ…」
「だよな。そもそも正負なんて言葉は、無理矢理、日本語表現しようとして出来ただけで、本来、プラスはプラス。マイナスはマイナスっていうより他ないんだ」
「だな。負けの反対は勝ちだしな。で、“勝負”って云ったら、まったく意味が変わってくる」
「敢えて云うなら、加減乗除になぞらえて“加減”。これが単純にプラスマイナスを和訳した言葉だ」
「や、まったくあさっての方向。いい加減だ…」
「“正誤”ってのは?」
「やぁ、そりゃ正誤表とかで見掛けるな… てことは、正解の反対は“誤解”? ん? 誤解って、ちょっと意味が…」
「そう、しっくり来ないだろ?」
「ああ、何だか違うような…」
「“正義”の反対は?」
「ほう、2文字になったな。そりゃ“悪”だな、間違ない」
「じゃ、“悪義”ってのは?」
「そりゃスラングだろう…」
「でも、意味は何となく分かるだろ?」
「まぁな、悪の掟みたいな感じかな…」
「悪解──」
「なるほど。悪い解… か」
「でも、悪の反対は“善”だ。“善悪”って言葉は聞くけど、“正悪”なんて言葉は聞かない」
「まぁ、そうだなぁ…」
「正解って素晴らしいと思わないか?」
「どうしたんだよ、急に…」
「“絶対”と同等なんだよ」
「というと?」
「対義語がない。対を絶する」
「ほう…」
「絶対には国語的に“相対”って対義語があるけど、絶対は絶対なんだよ。唯一無二。孤高だ」
「正解もそれと同等、と」
「やぁ、マジで素晴らしい」
「でも、どういうことなのか、結局、分からずじまいなんだけど…?」
「終わりだよ」
「え? 何が?」
「正解は終わり」
「…つか、何だかんだでさっきからお前、俺の問いにいっこも答えてないよな?」
「正解!」
「…あ、ホントだ。終わった…」
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