[エッセイ/随想]The last one piece
(2003/09/10 19:03:52)


彼女が突然心変わりした理由は、何となく分かっているつもりだ。

失恋の痛手を癒すために彼女は肉体的な繋がりを求め、彼は精神的な繋がりを求めた。


彼女は何もかも忘れたいがために彼に心を開いたが、彼はそれに応えることができなかった。

彼女の傷ついた理由が肉体に関わることだったから彼は躊躇した。
本能の赴くままに彼女を抱くことができなかった。

彼は精神的な優しさをもって癒そうとしたが、それは逆に彼女を追いつめ負担となった。歯車が噛み合わず、擦れ違い、食い違い、一方通行…

ただ、すべては言い訳に過ぎないのだろう。肝心なときに抱けない彼が悪いのだ。

客観的に見れば、馬鹿な男と可哀想な女の戯れ言だが、彼の胸はしめつけられるほど苦しいという。

10年連れ添った女と別れ、住むところを変え、仕事を変え、心を開いて語り合える人が彼の周りにはいないという。

彼が精神的な繋がりを求めたのは、そういった環境の変化もあるだろう。

虚飾で彩られた世界に身を置く彼としては、嘘や偽りのない素直な心で触れ合う喜びを求めたのだろう。


彼は知っている。失恋の痛手を癒すものは新たな恋愛でしかなく、ひとりでは解決できない問題だということを。

ひとりでいると、自分の我が儘さや身勝手さに気付かない。それらは相手がいて初めて実感できるものだ。

自分の内面を見つめるに足る、余りにも多くの人が彼の前を通り過ぎていったという。

自分が選んだ相手は自分の内面を映す鏡だ。自分の内面がすべてそのまま映し出される。

だから、彼の胸は締め付けるほど苦しいのだろう。

彼女の我が儘さや身勝手さを感じて、彼自身の中にもそういった要素があることに初めて気付かされたからだ。


彼と彼女が再会したとき、互いに違和感を覚えながらも口に出せなかったのは、互いの寂しさを分かってたからだ。

世の中に偶然は何ひとつ存在しない。
すべては原因と結果。必然だ。

彼と彼女は互いの寂しさを埋めるために再会した。彼はそう信じている。


壊れた心のジグソーパズル。
互いが最後を埋めるワンピース。

彼は今でも彼女を愛している。

傷つけば傷つくほどに
人は磨かれ優しく在れる。

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