過去、俺が若かりし頃、齢で云えば18、9。
上野辺りでバーテンダーだった駆け出しの頃、未成熟な思考と無謀な思惑を胸に抱き、ギラギラとした野望を瞳に宿していた頃。
三十路を過ぎた今となれば、純粋な恋愛観だったことをふと思い出す。
や、今でも十分、純粋だが…
その頃、目鼻立ちのキレイな同い年の女の子がいたのだが、彼女の悩み相談など受けていた。当時の悩みと云えば大抵が恋愛関係だ。恋愛至上主義、オーイエー♪
前の彼氏、正確には別れていないので今も彼氏ということだが、その彼氏と連絡が取れず、伝えたいことが伝えられないという。
当時はケータイなど普及していない。あってもポケベルくらい。それも極限られた人がという感じ。
コミュニケーションの手段が今より滅法少なかったのは確かだ。連絡が取れない=家電に出ない、ことくらい。親着拒という荒波を乗り越えて、数々の恋愛を消化したものだ。
話が逸れたので戻すと…
その彼氏と連絡が取れて店で会うことになった、と聞かされた。彼女は昼の部で俺は夜の部。バイトが終わったら彼氏がここに来るとのことだった。
「ふたりで思いの丈をぶつけ合えよ☆」
開店準備に追われながら彼女にそう云った。彼女は黙って頷いた。
開店して店が慌ただしくなって来た頃、いよいよ彼氏登場!
まぁま、正直、肩すかし(苦笑
悩むことあんのかぁ? そんな印象を受けたのだが、彼女にとっては愛しい存在なのだろう。他人の価値観にクチは挟むまい(笑
しばらく何事かを話し合っていたようだが、やがて彼氏は彼女を置いてひとりで帰ってしまった。
そのことについて深くは訊かなかったが、何だか悲しそうだったのをよく覚えている。
それからというもの、俺は彼女とよく遊ぶようになった。河辺でしゃべくったり、健康ランドでまったりしたり…
お互いが違う時間帯で動いていたので、どちらかが時間を合わせていた。ま、圧倒的に俺が合わせてたんやけどね(苦笑
ある日、彼女がこんなことを訊いてきた。
「私たちって付き合ってるのかな?」
俺は少し躊躇いながら、
「ん〜どうだろ? 何とか宣言みたいのなかったしなぁ」
「ふ〜ん… そうだよねぇ」
しばらく沈黙。
「なんでそんなこと急に?」
「うん。何だかふと思ったの」
「ふ〜ん。そっか」
何ともバツの悪い空気が流れる。
「や、何か理由あるだろ?」
こんなに仲良しなんだからそんなこと云うなよ、と云った次の瞬間、
「きみといるメリットって何?」
と、ぽつりと云われた。正直、言葉に詰まった。同時に、これ以上、一緒にいるべきではないな、と感じた。
恋愛についても何についても一事が万事。
メリットやデメリットをメインで追うと、その枠組みでしか発想ができなくなる。
無限に拡がっているはずのアイデアが、自分自身で掛けた呪文によって、心の奥深くの潜在意識下でひっそりと封印される。
痩せた土地には美しい草花は茂らない。
自虐的に自己否定することも多々あるが、俺は美しいものが好きだ。
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