切り立った崖と崖とを結ぶ1本のロープ。
渡り切った向こう側に何かある訳ではない。
「目的」「理由」は何もない。
「期待」「希望」も何もない。
ただ、そのロープを渡らねば、と云う厳然たる回避不能な現実があるだけ。
一番愛しい存在を抱えて、それを渡る。
突風に煽られ足元がぐらつく。
諸共、転落する可能性もある。
抱えている者を投げ出すことで助かるならば、自分だけ助かりたい、と云う「未練・執着・保身」もなく、
わたしを投げ出してあなたが助かるならば、わたしを投げ出して、と云う「直訴・懇願・挺身」もなく、
「落ちてしまうなら儘よ」と、お互いに何の「疑問」も「躊躇」も抱かないような…
否、誰に命じられることなく、能動的に、自らの意志で抱けないような、抱かせないような… そんな感覚──。
ギリギリの安心感──。
そんな感覚に見舞われる。
落ちてしまう可能性を十分知りつつも、落ちてしまうのも、また、この愛しい存在とならば、そして、どこか「落ちる筈はない」と云う「確信」を抱き…
大いなる矛盾を抱きつつ、その矛盾に気付きつつ、理解を飛び越え、感じる、心地好い絶望的な感覚……
ギリギリの安心感──。
ロマンティストは救われない。
救われないから抗わない。
否、救われないなら抗わない。
「潔」を以って、この安心感を受け入れ、全うする。
生の潰えるその瞬間まで──。
Tags: 厳然, 安心, 希望, 感覚, 期待, 未練, 現実, 理由, 理解, 目的, 瞬間, 矛盾, 能動, 躊躇
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