人は自己判断のみで生を垂れ流す。
自己判断とは、自分にとって好都合なことだけを抽出し、好都合に解釈し、受け入れ、それを「自己のものである」と云う確信に押し上げることだ。
逆に、不都合なことは例え正論と云えども浸透せず、受け入れない。
好都合・不都合の篩に掛け、取捨選択を行う。それは要・不要でも同じこと。
いずれにおいても自分中心軸はブレない。しかも、それを我が物顔で振る舞う。
何とも身勝手な生き物だ。
「客観的な自己判断」と云うものもあるが、それも飽くまで、自身の判断による「客観視」だ。どうしても「主観寄り」になることは否めない。
自分は常に自分の味方をする。
「自己中心的でない人間などこの世に居ない」──こう云わしめた所以だ。
──だとすると、自分中心のベクトルで埋め尽くされ、無数に絡み合う人ごみ、群衆──。
個々の自己中心ベクトルの集合体。一元物同士の連合艦隊。鬩ぎ合い。
犇めく個々のアイデンティティは何も意味を成さない。「人ごみ、群衆」と云う現象を象るためだけに存在する。
その現象の構成要素であるひとりひとりの人間が、非道くおぞましく感じるのは無理からぬことだとも感じる。
「人嫌い」の人の心理が分かるような気がする。人は吐き気がするほどおぞましいものを内包している。
本来、自分と異なる一元物…つまり、二元物…を排斥したくてうずうずしているのだ。
綺麗事は関係ない。「本質」を云っているつもりだ。
自分以外の一元物は目障りで邪魔なのだ。それを「理性」と云うまやかしで誤摩化している。「お互い様」と云う合言葉でやり過ごしている。
「現実」とは、ひんやりしているものだ。
昨今、囁かれるコミュニケーション能力の低下。これは低下ではなく進化であるのかも知れない。
「お互い様」と云う概念が浸透した。故に、意思の疎通を図る必要がない。
個々の一元物の価値観を尊重する、と云う最も高次元な概念なのではなかろうか、と。
多分に奇想天外な自己解釈かも知れないが、僕は人嫌いの人間好きなので矛盾した解釈でも不思議に感じない。
人を愛し、憎み、信じ、裏切られ、堂々巡りを承知で何度も同じことを性懲りもなく繰り返す。そして、多分、それを死ぬまで繰り返すのだろうと思う。
人は成長しない。学習能力ゼロだ。故に、何かを探すのだ、常に。
分かっておれば、やめるだろう。くだろうがくだるまいが、必ず終わるのだ。
お決まりの「どうせ死ぬ」と云う文言だ。
*「いつか死ぬ」に改変したが…w
この段に至っては故逸見正孝氏の記者会見を想起する。
彼は1993年12月25日胃癌によって死去した。その闘病会見での科白、
「癌によって死を迎えるのは、私の本意ではありません」
これには唸った。
「死」を「不本意」と括ったのだ。死を受け入れられない、と。
自己中心的思想の極致、最高峰である。その壮絶な「我が儘」に魂が震えたのを記憶している。
大袈裟な言い回しだが、僕は本当に涙した。何の涙だかは分からないが、
『死にたがってる奴も居れば、死にたくない奴も居る。逸見さん、死にたくねえよなぁ……』
と。心が切れたのだろう。大好きなアナウンサーのひとりだ。
寓話/お伽噺「博士と新任助手」の冒頭、
「必要なこと以外、喋らんで宜しい」
会話/戯曲「絶対服従の命令を呑ませる話術」の冒頭、
「余計なことは喋らなくていい」
両者共に「命令形」で始まっている。言い回しは若干変えているが、同じことだ。
両者共に「喋るな」とは云っていない。逆に「喋れ」と云っている、意味合い的には。
喋る内容について「特定」しているだけだ。
前者は「必要なことを喋りなさい」。
後者は「余計なこと以外を喋りなさい」。
後者作中では、
「必要なことだけ喋ってくれ」
と云う補足を述べ、前者の命令を噛み砕いている。
そして、両者共に
「必要なことを喋りなさい」
と云う命令のボキャブラ違いなだけである。
「必要なことを喋れ」とは、命令ながら「禁止命令」ではない。「黙れ」とは、似て非なる命令なのである。
「要」を説いているのだ。「要」を行え、と。
「要」を何に、何処に据えるか。冒頭の「要・不要」の選択肢を迫られている訳だ。
それによって自身の輪郭が抽出され、他人に認識される。
本来、他人などどうでも良いのだが、それでは些か自分にとって不都合なことが多いだろう。
一元物の輪郭、と云うことだ。
──と、自分本位な自己判断をする。
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